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連続ブログ小説「万年筆のある風景」第3話-パーソナルトレーニング-

連続ブログ小説「万年筆のある風景」
有希の彼氏、智広が使っていた万年筆はこちら。

面倒くさい。
本当に面倒なことになった。

目の前のクライアントは、アディダスのジャージに大粒の涙をこぼしながら嗚咽している。
6ヶ月前、初めてやってきたときには、「TOMOさんの率直なところ好きです」なんて言っていたではないか。

「だってさ。アヤさん言ってたっしょ。痩せて、中学のときバカにしてきた連中を見返してやるんだって。
俺はさ。アヤさんに綺麗になって欲しいんだよ。そんで、いじめっ子たちを同窓会でやっつけて欲しいんだよ。」

「わたし・・もっ・・痩せたいと・・思ってます・・。」

しゃくりあげながら弁明をするクライアントは、この半年間で80kgから60kgまで減量に成功した。
メニューはストイックな食事制限と筋トレ、しかしこの一ヶ月間、少しも減ることなく、何なら微増している始末だ。
停滞期停滞期と自分で言っていたが、とうとう今日白状した。どうやら食っているらしい。
しかもよりにもよって担々麺やパンケーキを、割とコンスタントに。
逆にそんなものを食って、微増で済んでいるのが奇跡だが。
それを聞いて、思わず言ってしまったのだ。「何やってんの!?」と。
そのせいで今目の前で泣かれる羽目になっている。
たまたま次のコマが入っていなかったため、
一コマ50分のパーソナルトレーニングの時間を15分オーバーして泣くのを眺める羽目に。

弁明は続く。

「でも・・食べはじめたらっ・・・止まらなくなっちゃうんですう・・」

わかりすぎるほどわかるんだよ。俺だって、コンテストの前の減量で何回もキレ食いやらかしたことあるし。
ストイックにすればするほど精神的な反動ができてしまうんだよ。

「だから簡単に食べ始めちゃったらだめなんだよ。止まらなくなるのわかってんならさ。その一口がデブの素なんだからさあ」

また言ってしまった。「デブ」は言うなと社長にも言われていたのに。
きっとこの人は、80から60まで痩せたもんだから、自分がもうすでにモデル体型になったと勘違いしてしまったのだ。
そりゃビフォーを知っている人間に「痩せた」「痩せた」ともてはやされたのだろう。
だが、まだ健康体重にも到達していない軽肥満体なのだ。それは喝を入れてあげるのが俺の役目だろ。

「・・・その一口が・・デブの素・・」

「そう!」

「確かに・・・名言ですね・・・。一口食べちゃうともうだめだけど、一口食べなきゃなんとか耐えられるんです。ポテチとか」

ポテチ・・・そんなものまでやっていたのかこの女。

「よし、じゃあさ・・・」

有希からもらった手帳のフリーページの部分を開いて、有希からもらった万年筆のキャップをとって渡した。

「書いときな。そんで、それお守りにしな。」

「・・・はい!」

クライアントは素直に、手帳に「その一口がデブのもと」と書いた。

「万年筆使ってるんですね。渋い。」

「案外書きやすいっしょ。」

涙が一粒こぼれて、「が」の文字が1/3程度にじんだ。
ああ、万年筆のインクは水に溶けちゃうから、大事な書類には使わないようにとプレゼントされるときに言われたのだった。
今まで全く困ったことはなかったが、女をなかせたときには困ると言うことだな。
でも逆にいいかもしれない。この日の涙を忘れなければ、もっと頑張れるんじゃないか。
書いた文字だけじゃなくて、そのときの感情まで記録したと言うことだ。
名言が生まれた。これは帰って報告だ。

「はい。お守りね。」

といって渡すと、四つに折って、手帳型スマホケースの内部ポケットの中に入れ、頑張りますと言って帰っていった。

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