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連続ブログ小説「万年筆のある風景」-第1話電車-

連続ブログ小説「万年筆のある風景」

目の前のリュックサックについている手作りのフェルトのマスコットがものすごく鬱陶しかった。
満員電車でつり革を手にできなかった苛立ちもその要因の一つ。
女性高校生の軽薄なリュックサックに、汚らしいフェルトのマスコットがいくつもついている。イニシャルのついたハート、膨らんだ犬(耳がとれかかっている)花の形など。友達同士で交換でもしているのだろうか。

ふと自分が女子高生だった時、こんなものをつけていたかと考えた。いや、こんな手作りのマスコットなどつけてはいない、が、そうだ。あの当時やたらと流行った「死にかけ人形」というのをつけていた。
どんなのだったかな、ゴムみたいなもので作られてて、ゾンビみたいな感じだった気がするのだけれど、携帯で調べてみようと思いつき、バッグの中からそっと取り出した。慎重にバンカーリングに指を入れて取り出す。

今でも思い出すだけで苦い気持ちになる。

二週間ばかり前、機種変したばかりのものだった。それも意図したものではなく、不注意で落として画面が割れてしまったのだ。
こんな通勤電車の中だった。
時間を持て余すのが嫌で、基本的に携帯をいつも持っている。バッグから取り出す時に、ふと手が滑ってしまったのだ。

若い頃なら潤いがあった手のひら、滑らせることなどなかっただろう。四十路を迎え、この手のひらはスルスルと滑りやすくなってしまった。
電車の床に画面から落ちた時、妙な音がしたのだ。そしてそれを拾い上げた時、割れた画面を何人かの乗客が見ていた。
バカにされたような空気を感じたのは被害妄想だっただろうか。

たった30分の通勤の時間も、携帯を触らずにはいられない依存症である妙年の女性を皆して哀れに思って笑っているのだ。とその時は思った。

指紋認証でロックを解除し、ブラウザを開こうとしたが、フェイスブックの通知がきていた。対して仲良くもない人物が、また今日も自分の幸せをひけらかしてマウンティングしていた。

子どもが豆乳を飲めるようになったんですか。へえ。良かったですね。結婚して子どもできて、汚いおばさんになってしまえ。と思っていたが、どうやらこのひとは子どもが生まれても仕事を続け、姑に子どもを預けて出張になんか言っているらしい。汚くなるそぶりも全く見せず本当に神様って平等じゃないなと思った。

ツイッターでつぶやくのもはばかられるような呪いの言葉が浮かんだ、ついでにツイッターを見に行く。

あれ、自分なにしてたんだっけ。死にかけ人形を調べようと思ってたんじゃないか。スマホのなにが困るって、何かしようと思って開いたのに別のことやってて、なにしてたんだっけとなることだ。とにかく脱線してしまう。

ふと見ると、同じ車両の人間ほとんどがスマホを見ている。漫画を読んでいたり、インスタを見ていたり、ロクでもないネタばかり扱うニュースサイトを見ていたり。みんな同じような姿勢で同じようなものを見ていても、その奥に広がるのは全く違う世界だというのが変な感じだ。

電車には中吊り広告もたくさんぶら下がっているけれど、誰一人見てもいない。と思っていたら、見ているひとが居た。

誰かの小説の新刊か何かの広告を凝視している。イケメンだった。イケメンといっても派手な顔ではなく、高橋一生のようなさっぱりとした優しげなイケメンだ。清潔感があり生活感のない、ゆるいカールヘアの男だった。

イケメンはおもむろに上着ポケットの中から手帳を取り出し、胸ポケットにさしているペンを抜いて何か書き始めた。書くことに慣れている、そんな感じのする姿だ。

胸がどきりとして、少し泣きそうな気持ちになる。

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